私鉄沿線酢豚定食四面楚歌

代替文


 私鉄沿線の急行が止まらないような、つまりは小さな駅の商店街にある街の中華屋さんというのは、どうしてああもマズイのであろうか。競争原理が働かないからであろうとは思われるが、「あえて競争をしない原理」が働いている気さえするじゃないか。そこんとこはどうなんだ自由主義経済。ラーメンとかチャーハンは、まあ、許す。そこには「マズイなりの、あの味」があるからである。あの、なんともいえない、どの店にもなんだか共通項のある、脂が悪いような、しょっからいような、幼い頃のトラウマを呼び起こすような、あの味がね。がしかし、ちょっと頑張って「酢豚定食」あたりが危ない。ちょっと頑張って、というのは別にこちらのことではないのである。向こうがちょっと頑張って「定食にはすべて、サラダ、小菜、漬け物、スープ、デザートが付きます」なんて言ったりするのである。まず主菜である酢豚がマズイのは言うまでもない。酸っぱいことは酸っぱいんだけど、それだけっていうか、辛口なのか甘口なのかもわからない。それが北京なのか広東なのか上海なのかはもちろん、もうそこがどこの私鉄沿線だったのかも一瞬忘却するというシロモノである。そこにもってきてサラダだ。いや待て、このトレーに載った細々とした皿のどこに「サラダ」があるんのかしらん。あ〜これかあ。小さな皿に申しわけ程度に「何かの葉っぱ」が載ってましたあ。小鳥かオレは。この時点で文鳥の諦めとジュウシマツの後悔の狭間に揺れる小鳥気分のワタシは、小菜(野菜炒めの残骸)と漬け物(ザーサイの切れ端)は、もう無かったことにしてただ嚥下することにするのである。救いは、この玉子スープと白いご飯だな。スープ……マズイ。ていうか味がしない。し、白いご飯は……ああ、ご飯でよかった。塩かけて喰おうかしらん。結局、喰った。とにかく喰った。こういう時でも残さないのは我ながら戦後すぐ(正確には戦後14年目生まれ)の子供である。こうなると問題は、目の前のトレーにポツンと残った杏仁豆腐(のようなもの)だ。おかげさまで真っ赤っかなチェリーまでもが浮いている。これは……喰っていいのだろうか。喰ったら……ここまでの苦労が水の泡と消えるぐらいに……マズかったらどうしよう。がしかし残せません戦後すぐの子供たち。く、喰うのか、オレ。誰か助けて。



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