下北沢散歩日和(長いよ!)

代替文


 珍しく小田急線で出社途上、時間があったので下北沢をパトロールすることにした、そんなサタデー午前11時。まずは、風前の灯火の駅前マーケットを巡回。寂しいねえ、なんか。なんていっぱしのクチきいてますが、ここのところ下北沢自体にご無沙汰しちゃってちっとも売り上げに貢献してない、言ってみりゃ通りすがりの者のこんな感傷なんて地元の皆さんにはホント余計なお世話でしょうな。でもやっぱり寂しい、なにしろ70年代には[下北沢LOFT]で葡萄畑とか南佳孝さんとかのライヴを観たことがあるぐらいには、80年代には経堂在住だったから毎晩のようにハシゴしてはメートルをあげてたぐらいには通ってきたわけで。


 ぐるっと井の頭線を迂回して南口に出て[トラブルピーチ]の健在(?)ぶりを確認。昼間見るとますますボロボロですな(笑)。若い頃、某バンドの怖いマネージャーさんにここに呼び出されてこっぴどく叱られた思い出あり。25年ぐらいは軽くここにあるってことか……。そういや当時は山下久美子さんのマネージャーさんにも叱られたなあ。80年代の頃は「アーティストに原稿チェック」なんてしなかったから、いろいろ行き違いでトラブルもありましたさ、そりゃ(遠い目)。


 ちょうど昼時。腹減った。下北で腹が減ったら行くとこは決まっているのである。タウンホール裏手の[みん亭](みんは王編に民ね)へ。開業40年という老舗のフツーの中華屋さんだ。別にすごく美味いとかじゃありません。っていうか、他に食うモンあるだろ、イマドキの下北なら(笑)。じゃあじゃあ麺と餃子。店内男ばっかり(ほぼ全員ひとり)。グループで入ってくるのは建築関係の皆さん。なので、ちょっと量が多いね、オレ様のようなセレブには(撃沈)。
 見るともなくカウンターの上に並んでいたサイン色紙を見てたんだけど、ほとんどが劣化が激しくて誰なのかほとんど読めませんでした(笑)。壁に貼ったメニューの貼り紙も油染み。そのサインの中で唯一くっきりはっきりしてた蛭子能収さんが1992年に書いた色紙の真下でコートを着たままもそもそメシを食う。こういう店では男どもは全員アウターを着たままメシを食うのですよ、お嬢さん。


 蛭子さんのちょっとしたいい話。宝島で蛭子さんの4コママンガを担当していた頃、蛭子さんは所沢から新宿(雀荘)に来る途中の西武線の中でマンガをお描きになるのである。それをワタシは雀荘で受け取る。ある日、取りに行ってみたら原稿にボコボコ穴が開いているのね。あれ、コレなんすか、と問うてみたら「いやあ、それがさ、ペン入れが間に合わなくてさ、雀卓でボールペンで描いたから」。雀卓のフェルトっぽいとこで描くからさあ、下が柔らかくてボールペンが紙を貫通! って、だいたいボールペンでペン入れしてんのかよ(笑)。
 しかも、間に合わなかった理由は「どうしてもパチンコがしたくなって高田馬場で途中下車しちゃって、えへへ」だそうです。こらえ性がないにもほどがある!


 お腹一杯なので、ジャズ喫茶[マサコ]にてコーヒー&シガレット。ここも学生の頃から時々来ている。マサコさん亡き後も続けてくれているのはホントに頭が下がる。言ってみればもう客としてシロートじゃないんですから(笑)、プロの客は「店がいつでもそこにある」ことに感謝しなくてはいけないのである。
 古い木の扉からごめんください。空いてる。ここも男ばっかり。木造の、配線むき出しの、手作り感たっぷりの店内。ちゃんとクリスマスツリー。暖房はガスストーブ。JBLから柔らかきマル・ウォルドロン(たぶん)。天井のポスターは数十年分のヤニをたっぷり吸っている。若い頃からジャズ喫茶のヤニを吸って焼けて黄ばんだモノクロのポスターが好きだったことをふと回想。マスターは地元のご老人仲間と残尿感の話でもちきりだ(笑)。その話を半分聞きながら珈琲煙草していたら、いい感じで「枯葉」がかかった。人間(じんかん)到るところ青山あり。最期はジャズ喫茶のマスターで死ぬっての、オレ、いいかも。
 ちなみにメニューに「フルーツカルピス」がある喫茶店も、ここぐらいなんじゃなかろか。オーダー、あるんですかあ?


  [みん亭]の壁のメニューも[マサコ]の天井のポスターも、昨日や今日じゃないことだけを物語っている。油とヤニを染みこませている。美しくもなく。それがイマの東京が失いつつある油染みです。年月だけはお金じゃ買えないのです。「でも汚いのヤダあ」という方は、ぜひ一度新宿西口大ガード脇の[思い出横丁]、通称ションベン横丁のうなぎ串焼き屋[カブト]の電球の傘を見てみるといいですね。昭和からずっと掃除してません。滝田ゆう先生の頃から。油が数センチ積もってる。美しいまでのあまりの汚さに卒倒しちゃって欲しいねえ(笑)。


 下北沢をぶらぶらしている間に踏切を三度渡った。下北沢は踏切のたくさんある、踏切に囲まれた、いい街です。


【散歩中のココロのBGM】WYNTON KELLY『KELLY BLUE』1959
ケリー・ブルー+2
マル・ウォルドロンもいいけど、ウィントン・ケリーも好き。
何度聴いても、やっぱりこれ名盤中の名盤。
「柳よ泣いておくれ」は生涯好き。冬はピアノです。


【話と関係ないけど推奨盤】
ノーナ・リーブス『free soul-free soul of NONA REEVES-』2006
free soul-free soul of NONA REEVES-
うわ、コレ最高じゃんか!
なんと橋本徹さんがノーナのナンバーを
フリー・ソウル目線でセレクトしてコンパイル
究極の“フリー・ソウルな”ノーナ・リーブス・ベスト盤。
西寺郷太橋本徹に最敬礼!