牡蠣フライ BETWEEN THE 巨漢

代替文
 校了日なのである。責了日でもよろしい。とにかくそういう日であります。

 でまあPCと校正紙にかじりついているわけですが、腹は減る。「腹が減っては、いい草ができない」とマリファナ栽培の人も言っているぐらいなので昼飯に出た。

 今日のお目当ては「カキフライ」であります。せきしろさんも「カキフライが無いなら来なかった」と言っているぐらいなので、あるかどうかは慎重に確認して某店入店。いわゆるトンカツ屋さんである。

 そしたらね、ワタシの両隣のお客さんがね、デカイのである。左はすでに食べ始めている40歳ぐらいのビジネスマン。ダークグレーのチョークストライプのスーツはサイドベント。靴もバッグも、まあまあお洒落である。ただし体格がいい。90キロ台はあるだろうなあ、というずっしり体型で首が太い。ヘアスタイルはやや刈り上げ系。ワタシがココロの中で付けたあだ名は、もちろん「ラグビー部」だ。

 このラグビー部がだ、実に食べ方が汚い。スーツからハミ出した腹をぐいとテーブルに食い込ませて、トンカツのお盆にかぶさるようにして「むさぼり喰う」のである。キャベツなんぞはそこかしこに散らかし、左手は決して飯茶碗を離さない。離さないどころか、茶碗の縁を口に当てて、いわゆる「かっこむ」。トンカツとキャベツを一緒に取っては、キャベツを途中でボロボロ落としながらも、脇目もふらずにガシガシ喰う。なんちゅうか、本中華、言っちゃあなんだが、動物である。

 すごいでげすな、どうも。なんて圓生師匠風に思いながら右に目を転じると、こちらのおじさんもデカイ。身長も高いので恐らく100キロ超、いや120キロぐらいかもしれない。上着は黒い革のコート。ノーネクタイ。二人連れなのでそれとなく会話を聞いたら、どうも「社長さん」らしい。黒くて大きくてなんとなく動作が鈍いので、とりあえず「マレー熊社長」と呼ぶことにした。

 こちらは注文の真っ最中である。「えっと、オレはヒレカツ」とマレー熊社長が言ったら、店員さんが「ランチのサービス・ヒレカツですか? ヒレカツ御膳ですか?」と聞き返す。すかさずマレー熊社長が曰く「ん? 高い方ね」。すげえ(笑)。

 しかし、凄いのはここからであった。

 マレー熊社長は、通常3枚のヒレカツ御膳に、さらにヒレカツ1枚とカキフライ3個を追加オーダーしたのである。ど、どんだけ。

 でも、食べ方は綺麗だった。さすがは社長さんだ。

 間に挟まれたワタシは、静かに、そしてなるべく上品にカキフライ御膳(ご飯少なめ)を食べた。そしてココロの中で「オレも、何かがまだまだだな」と思っていたのであった。それが「何」かはちっともわからないけれども。

カキフライが無いなら来なかった

カキフライが無いなら来なかった