出直しカレー部「カレーはギーミーでシクヨロ」

代替文


 出直しカレー部としてカレーを食べることここ数ヵ月。その間にワタシ(ジョジ後藤ファン)はちょっとしたことに気づかされた。


 カレーライスには向きがあるのである。味の向き不向きというのもあるが、ここではその話ではないのである。向き、つまりお皿の向きのことである。賢明な諸君はすでにおわかりの通り、カレーライスは主に以下の構成となっている。「カレー」「ライス」「福神漬(など)」。一皿の中にカレーとライスが別れて盛られている、いわゆる「セパレートタイプ」のカレーライスの場合、これが向かって右からどのように配置されておるべきであろうか。ライス全体に最初からカレーがかかって供される「全がけタイプ」の[インデアンカレー]さん、そして最初からカレーは別のポットで運ばれてくる[中村屋]さんなどは例外である。また、手前にカレーがあって奥にライスを配したタイプもやや例外と言える。


 ワタシは右利きなので、スプーン、つまり匙(江戸っ子的にはしゃじ)は右手にある。銀色に光るそれをカレーライスのやや右上方の空間に位置し、そこから斜め45度ぐらいの角度でカレー内にと突入するのが常となっている。さあ、ゆっくりとスプーンが右側からカレーに入って行った、そのままリストを軽くひねってスプーンがカレーをすくった、おっと、その大さじ一杯のカレーが左サイドの白いライスへと向かった、と思ったら、すかさずかけたー、白いライスにカレーがかかったー、空になったスプーンは、おおっと間髪を入れず今度はライスの下部に刺さった刺さった、持ち上げた−、いままさに「ひとさじのカレーライス」となったそのスプーンが口へと運ばれていく、入ったー、ぱくり、うまーい!


 おわかりであろうか。この一連の動作をスムースに行うためには、右にカレー、左にライス、そして福神漬(など)は、その動作に影響を与えないライス左上部にポジショニングしているのが好ましいのである。我が儘を言わせていただけば、「おまちどおさまでした」とサーヴされた時点で、その向きに置かれることが望ましいのである。


 ところが、巷のカレーライス店の中には、この逆位置をデフォルトとしている店がなくなくもない。なくなくなくもない、か。とにかくある。右がライスで左がカレー。試しにWEBの画像検索に「カレーライス」を入力して調べてみたりもした。あるねーあるある、「右ライス左カレー」の画像が。


 試しにそのカレーで初動を右のライス側から始めてみよう。右から突入したスプーンがライスをすくう、それを左翼席側のカレーサイドへと移動、カレーのたまりにその白いライスを投入、すかさずカレーごとすくうものの、あー、なんかカレーの中に白いご飯つぶが流れ出してルー。(ここは駄洒落です)


 そう、ライスをカレー内につっこむと、どうしてもカレールーにご飯が流出するのである。ワタシはどうもそれが解せない。ワタシが少数派なのかどうかわからないが、できれば「右カレー左ライス」でいたい。「そんなことどうでもいいだろ!」とお思いの方もいるかと推察する。本当にその通りだ。


 しかし、ヒトは流儀の動物である。「右ライス左カレー」の店に遭遇すると、どうしても皿を180度回転させることとなってしまうのである。もちろん福神漬(など)も丁寧に移動する。お店側としては、不信な客ですよ、完全に口あんぐりだ。いかん、こんなことで店の雰囲気を壊しては客として失格だ。よし、ここは「いや、悪気はないんです」という穏やかな微笑みを絶やさない注意が必要だぞ……と、妙にニコニコしながら皿を回す中年。いずれにしても怪しいのである。


 もちろんこの「右カレー左ライス」は、ワタシが右利きであるということに起因している。すべてのカレー店に「右カレー左ライス」を求めるのは、いわば右利き中心主義的「右利き右派」の発想である。それはいかん。それは本意ではない。うむ、ここはひとつカレーを出直す身として、「右ライス左カレー」の店に遭遇した場合に備えて、左手でカレーを食べる訓練をしてみてはどうだろうか。それはいいかも。


 東京の片隅の、どこかのカレースタンドで左手にスプーンを持ってぎこちない動作でカレーを食べている中年がいたら、きっとそれはワタシです。