帽子かぶって幾星霜

代替文


 そういえばね、1994年に拙著『猿のこだわり』(絶版、っていうか出版社がもうない)を作った時に70名ぐらいの方々に「渡辺祐のここが嫌い」というコメントをもらっていて、渡辺和博さんにもお願いしたことを思い出した(画像にしてみました)。
 どうも帽子のことしか言われていない気がする(笑)。


 そのコメントの中ではシティボーイズのきたろうさんが秀逸ですよ。
 以下、きたろうさんの「渡辺祐のここが嫌い」。無断再録。

「器用な人である、と言えば褒め言葉のようでもあるが、どこか八方美人で何でもこなす的なニュアンスも含まれ、別に人生、器用である必要もないんじゃないかと思える。器用より鈍重の方が親しみがあり、理解しやすいので、一般的には器用な人は警戒されがちである。それは才能に対するやっかみも含まれているかもしれない。そのやっかみを決定的にする言葉が「小器用」である。なんとも嫌な言葉だ。渡辺氏はまさに「小猿の小器用」と位置づけたい。まあ小猿ほど可愛くないので大猿、いやいや大猿は豪快なイメージがあるので中猿がいい。「中」という言葉も曖昧で嫌な言葉だ。中猿の小器用。よしよしと。


 へこむわあ、13年経った今読んでも(笑泣)。当たってるだけになあ。なのできたろうさんのコメントのことはもう忘れることにして(ご都合主義)、渡辺和博さんの方のコメント(いまいち意味がわかりづらいね)をスキャンしながらこの拙著を読み返してみた。あまりにくだらない。あまりにあんまり天地真理なので、ちょっとだけ蔵出ししてみたいと思うのである。そりゃ日光けっこう東照宮バブル崩壊直後の世相を反映した小器用なコラムです。

渡辺祐駄文蔵出し「ねずみ穴はやったんべえな」】


「タクシーをつかまえろ!」


 ええ、こうして毎年年末になりますとですね、タクシーというものがつかまりませんな。もうにっちもさっちもいきません。ちぇ、タクシーのヤローなんて罵声のひとつも吐いちゃうわけですよ、渋谷のタクシー乗り場にて。
(中略)
 とにもかくにもすけさんかくさん。年末になりますってえと、タクシーがつかまらないわけで、もー露骨な乗車拒否されたりもしますな。おー空車だーってんで、車道に出てまで手を挙げる私。一瞬スピードを落としたタクシー、勝負の瞬間だ。すかさず回送のフダを立てる運転手、しまった先手を打たれた、とさらに車道にステップインするが遅かった。くいくいっとシフトダウンしたタクシー、ギュインとタイヤの軋みを残して国道246号の彼方へと消えて行くのであった。めでたしめでたし。
 めでたくなーい。去年の年末、こうしてタクシー確保作戦に疲れた私とウチの事務所(注:92年当時)の大橋(猿に似てる)がとぼとぼと青山から渋谷に向かって歩いていた時のことである。なんとああた、目の前にお客さんを降ろすタクシーが止まったじゃありませんか。やったぞ、我タクシーをつかまえたり。←(C)しりあがり寿。もう運転手さんの意向を無視して乗り込む我々。ただし前のお客が降りてからにしたのは言うまでもないだろう。
「あー、よかったよかった」「お客さんどちらまで」「東急本店までお願いしまーす」「渋谷ね(近けーなの意)。お客さんたち、ずいぶん待ったの?」「もー大変でしたよ。よく女の子には止まらないとか言いますけど、立派な男の子なのになあ。それともこんな帽子かぶったような男二人にも止まらないんすかねえ(冗談のつもりで言っている)」「あははは。そうだよ」
 がちょーん。その日、私は事務所で制作したアポロキャップ、大橋(猿に似てる)はNBAブレイザーズの帽子かぶって、しかも私ときたら赤いブレザーも着用していたのであった。車内にて運転手さんに取材したところによると、年末の忙しい時期はもちろん、普段の深夜でも、帽子、Tシャツ、赤い服、などは止まりにくい対象になっているのであった。そのココロは近いから、である。そりゃあまあ青山のMIXから渋谷のCAVEまでというナイトクラビング(死語か?)野郎ばっかりじゃ、商売になりませんからねえ、ああオレのことか、それはまことに帽子わけない。
「30過ぎてから、また野球帽をかぶるとは思いませんでしたよね」
 これはやはりウチの事務所(注:92年当時)の重鎮・川勝正幸の名言である。
(中略)
 さて、例の一件があって以来、タクシーがつかまりにくい時間帯には、なるべく脱ぐように対策を講じている私だが、この場合、タクシーとは別の問題が発生することに気づいた。それまでかぶっていた帽子を脱ぐと、髪型がへんちょこりんであるということである。へんちょこりんを防ぐには、頻繁に散髪に行かねばならない。しかも、そこに気づいたタクシーの運転手さんが、今に髪型がへんちょこりんも乗せないようにする、ということになったら大変だ。NBA系はいいけど、スケーター系はだめ、とか情報交換してたりして。
 関係ないがスチャダラパーの新曲は「トリオ・ザ・キャップス」という帽子の歌だ(嘘)。ただいま絶賛発売中。ウチの事務所がジャケット・デザインとプロモビデオ制作を担当しています。
 そのビデオの企画構成をしている川勝正幸は、深夜タクシーに乗るたびに、運転手さんから「おや〜、お客さん、野球の帰りですか〜?」と言われるそうである。野球の帰り(笑)。


(初出:「R&R Newsmaker」1992年6月号)


 リライトしてみて気づいたのだが、この時から文章に1ミリも進歩がない。ミリどころかナノ単位でもない。しかもだ、雑誌の6月号に「こうして年末になると」とか書いている。なんじゃそりゃ(笑)。バカがこんがらがってますよ。


【BGM】スチャダラパー『ポテン・ヒッツ』1994
ポテン・ヒッツ?シングル・コレクション